墓の引っ越し(改葬)が増えている背景には、近年、「墓を引き継ぐ人がいない」「お墓が遠すぎて墓参りもできない」「実家のお墓を親せきに頼むこともできない」といった理由が挙げられます。これにより、既存のお墓から遺骨を取り出し、新しいお墓に再度納骨するケースが増えているのが実情です。
墓の引っ越し、つまり改葬の際には、一定の費用や行政的手続き、宗教的な儀式が必要とされます。しかし、これらの移転費用や行政手続きについては、まだ詳しく知らない方が多いようです。
そこで、今回の記事では、墓の移転に関連する情報をわかりやすくお伝えします。まず、移転にかかる手順や費用、お墓を移す時期、そして墓の移動の際に必要な儀式について解説します。
お墓の移動の手順
お墓の移動にはまず以下に示すような7段階の作業を行うことになります。
1)「埋葬証明書」「受入証明書」「改葬許可証」
改葬を行う際には、いくつかの行政手続きが必要となります。以下に、改葬の手続きについて解説します。
まず、もともと遺骨を埋葬していた墓地や霊園の管理者に連絡し、「埋蔵証明書」の発行を依頼します。これは、既に埋葬されている遺骨があることを証明する重要な書類です。
次に、引っ越し先の霊園や墓地の管理者に連絡し、「受入証明書」を発行してもらいます。この書類は、改葬先の霊園や墓地が遺骨を受け入れることを確認するものです。
そして、「埋葬証明書」と「受入証明書」の2つの証明書を持って、引っ越し先のお墓がある自治体の関係部署に申請し、「改葬許可証」を発行してもらいます。これにより、改葬が正式に許可されることになります。
改葬許可証を手に入れることで、やっとお墓の引っ越しが実行可能になります。しかし、これらの手続きは時間がかかる場合があるため、早めに準備を始めることが重要です。
墓の引っ越しに関する手続きは、地域や法律によって異なる場合があります。したがって、適切な手順を踏むために、事前に地元の自治体や墓地の管理者に相談することをおすすめします。遺骨の引っ越しを確実に遂行するためには、適切な書類と許可を得ることが不可欠です。
2)魂抜きの儀式
お墓から遺骨を取り出す際には、「魂抜き」と呼ばれる儀式が必要となります。この儀式は、故人の魂が宿るとされるお墓の墓石から魂を抜き、別の場所へと移動させるものです。
魂抜きの儀式には「閉眼供養」や「お性根抜き」という別名があります。この儀式には、お墓の清めやお坊さんを呼んでの読経が含まれます。故人への供養と共に、魂を適切に導くことが目的とされています。
ただし、最近では閉眼供養に必要なお布施が1~5万円と高額なことから、コストカットの観点から魂抜きの儀式を行わない家庭が増えてきています。
魂抜きの儀式は宗教や地域によって異なる慣習があるため、家族が慎重に決定することが重要です。遺族が自身の宗教や信仰、故人の意向を考慮して、適切な選択をすることが大切です。
なお、お墓から遺骨を移動する際には、地域の法律や規則を遵守する必要があります。墓地の管理者や宗教関係者に相談し、適切な手続きを行うようにしましょう。
3)遺骨を取り出す
閉眼供養が終わった後は、お墓の納骨室から遺骨を取り出す作業が行われます。お墓の納骨室には、二つのタイプがあります。一つは自分で開けることができるタイプであり、もう一つは重い墓石によって閉じられており、自分では開けることが難しいタイプです。
前者の場合、家族が石材業者を呼ばずに自分たちで遺骨の取り出しを行っても構いません。しかし、後者の場合は石材店の専門家に作業を依頼することが必要です。重い墓石を無理に動かそうとすると、墓石が傷ついたり、大きな怪我をする危険があるため、専門家の手を借りる必要があります。
遺骨を取り出した後は、家族の希望に応じて自宅や納骨堂などで遺骨を安置します。自宅で遺骨を安置する場合は、故人に対して敬意をもって供養することが大切です。また、納骨堂を利用する場合は、納骨堂の管理や手続きについて確認しておく必要があります。
お墓の遺骨取り出しは、遺族にとって感情的なプロセスでもあります。大切な家族の遺骨を扱う際は、慎重さと敬意をもって行動し、遺族が心穏やかに供養できるよう配慮することが重要です。
4)新しいお墓を立てる
遺骨を取り出す際には、同時に新しいお墓を立てる計画を進めておきます。お墓の完成までには時間がかかる場合があるため、早めに石材業者に相談を始めることがおすすめです。
お墓の建設には時間がかかるため、遺骨の引っ越しと新しいお墓の建設を並行して進める必要があります。特に、個別にデザインを決める場合は、石材業者との打ち合わせや工程に時間がかかることがあります。
また、費用削減の観点から、今ある墓石を再利用することも検討できます。既存の墓石を再利用することで、費用を抑えることができますし、故人の意向を尊重することもできます。
一方で、美しさや新しさを重視する場合は、新しい墓石を立てることも選択肢に入ります。個性的なデザインや高品質の石材を使用することで、故人への敬意を表すことができます。
ただし、もともと引っ越し先に既にお墓が存在する場合は、新しいお墓を立てる必要はありません。その場合は、遺骨の移動だけを行い、新しいお墓の建設手続きは不要です。
お墓の引っ越しや建設に関しては、地域の法律や規則、墓地の管理規定を確認することも重要です。また、家族や遺族の希望を尊重し、故人にふさわしい供養ができるように計画しましょう。
5)魂入れの儀式を行う
新しいお墓の墓石に故人の魂を宿らせるための重要な儀式として、「魂入れ」が行われます。この儀式は、別名「開眼供養」や「お性根入れ」とも呼ばれ、僧侶を招いて読経が行われることが主な内容です。
魂入れの儀式は、新しいお墓の墓石に故人の魂を安住させる意味を持ちます。故人への敬意を示し、魂が安らかに過ごすことを祈る大切な儀式です。
ただし、近年では開眼供養に必要なお布施が1~5万円と高額なため、この儀式を行わない家庭が増えてきています。費用を削減する目的から、故人の供養をシンプルに行う選択をする家族も増えているようです。
魂入れの儀式は、宗教や地域によって慣習が異なりますので、家族が自身の信仰や故人の意向を尊重しながら適切な選択をすることが重要です。また、遺族が納得のいく形で故人の供養を行うことが大切です。
6)新しいお墓にお骨を移す
遺骨を自宅や納骨堂に安置していた後、それらの遺骨を新しいお墓の納骨室に納骨します。遺骨の納骨作業は、遺骨を取り出すときと同様に、重い石を動かさなければならない場合は石材業者に依頼することが必要です。
納骨は、通常、開眼供養の後に直接行われることが多いです。開眼供養が終わった後、遺骨を新しいお墓の納骨室に納めることで、故人の魂が新しいお墓に宿ると考えられます。
お墓への納骨は、家族にとって感情的な瞬間でもあります。故人への敬意をもって丁寧に行うことが大切です。また、納骨作業には注意と専門知識が必要な場合もあるため、石材業者に相談することで安心して手続きを進めることができます。
遺族が新しいお墓に遺骨を納める際には、故人への思いや感謝を込めて丁寧に供養することが大切です。家族が心穏やかに供養を行い、故人の魂が永遠に安らかであるよう願いを込めることが望ましいです。
7)古いお墓を解体し更地に戻す
古いお墓を改葬や引っ越しのために解体し、墓じまいを行うことが一般的です。ただし、もし古いお墓をそのまま保持したい場合、解体する必要はありません。ただし、維持費を考慮すると、解体して墓じまいする方が多くの選択肢となっています。
古いお墓を解体する際には、地域の法律や規制を遵守する必要があります。解体には専門的な知識や技術が必要な場合もあるため、石材業者などの専門家に依頼することが一般的です。
墓じまいを行う理由は、さまざまです。例えば、家族が新しいお墓を建てる場合や遺族がいなくなり、維持管理が難しい場合などが挙げられます。墓じまいを行うことで、土地を解放したり、新たな利用方法を考えることができます。
古いお墓の解体や墓じまいに際しては、家族や遺族が感情的になることもあるため、慎重に計画することが重要です。遺族が納得のいく形で進めることで、故人への敬意を持ちながら適切な対応を行うことが望ましいです。
なお、古いお墓の解体や墓じまいに関しては、地域や墓地の管理規定によって異なる要件がある場合があります。解体や墓じまいを行う際には、地元の法律や規制をよく理解し、適切な手続きを行うことが大切です。
お墓の引越し費用
お墓の引っ越しにかかる費用は、一般的に100~200万円前後と言われています。その内訳は以下のようになります。
新しいお墓を立てる時の費用
- 墓石代や設置費用、永代使用料などにより、約200万円前後の費用がかかります。
古いお墓を解体し更地に戻す時の費用
- 墓石を解体・撤去するには、約30~50万円程度の費用がかかります。
- 特に寺院などでは、指定の石材店のみが撤去・解体作業を行える場合が多く、それにより費用が高くなることがあります。
離檀料の可能性
- 長年の檀家であった場合に、檀家を離れる際に「離檀料」を請求されることがあります。
- 離檀料は本来仏教界に存在しないはずのお金ですが、檀家の少ない菩提寺だと収入源の一つであり、寺の命運にかかわるため高額な料金を請求されることがあります。
これらの費用の中でも、新しいお墓を立てる際の費用と古いお墓を解体する際の費用が特に大きな割合を占めています。離檀料も検討すべき要素となります。
高額な離檀料を請求された場合は、弁護士に相談するなど、対策を検討することが重要です。お墓の引っ越しや改葬に際しては、費用や手続きだけでなく、寺院や関係者とのコミュニケーションや法律的な側面にも注意を払うことが大切です。
お墓の引越しのタイミング
お墓の引っ越しタイミングについてお伝えします。お墓の引っ越しは基本的に「いつでも良い」という取り決めになっていますが、以下の点を考慮するとよいでしょう。
年忌法要に合わせるかどうか
年忌法要に合わせて納骨式を行う方が多いようです。しかし、特定の日に行う必要はなく、普通の日でも問題ありません。
仏教的な制約
仏教的には友引の日や仏滅の日を避ける必要はありません。自由に日程を選ぶことができます。
参列者のスケジュールを考慮する
納骨式には故人とつながりのあった方々を呼びたいと考えることが多いです。参列者のスケジュールを考慮して日程を決めると良いでしょう。
天候を考慮する
- 納骨作業を屋外で行う場合は、天候を考慮することが重要です。天候の良い春や夏に行うことをお勧めします。
- 冬の雪深い中や秋の台風の中での納骨は、参列者や施主の身体的な負担が大きくなる恐れがあるため、避けるべきです。
お墓の引っ越しは家族や遺族にとって感情的なイベントでもありますので、適切なタイミングと条件を考慮して計画することが大切です。納骨式を円滑に進め、故人への敬意をもって行動することで、家族全員が心穏やかに過ごせるようになるでしょう。
お墓の移動|まとめ
お墓のお引越しに関する情報をお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?
お墓の引っ越しは、人間の引っ越しと同様にそれなりに大きな金額がかかってしまいます。費用の内訳として、新しいお墓を建てる費用や古いお墓を解体する費用などが挙げられます。また、離檀料など、思いがけない費用が発生することもあります。
お墓の引っ越しには、慎重な計画と家族との話し合いが欠かせません。引っ越しのメリットやデメリットをよく洗い出し、お財布とも相談しながら、家族で決断することが重要です。
引っ越しを検討する際には、遺族や家族の希望や意向、故人の意向を考慮することも大切です。また、地域の法律や規則、墓地の管理規定にも留意し、手続きを適切に進めることが必要です。
今回の記事が、「お墓のお引越し」についての知識を深めるのに役立てていただければ幸いです。大切な家族や故人に対して敬意をもちながら、適切な引っ越しの決断を行い、心穏やかに供養できるよう願っています。