お経が聞き取れないのはなぜ?
お経を聞いても何を言っているかわからないのは、日本の言葉でも英語でもない、独特の言葉だからです。
日本に伝わったお経の原文は、サンスクリット語が伝わった当時の原語のまま読まれていることが多いから。
さらに、漢語の音読みや、和語(日本語)が混ざっていることもあります。
般若波羅蜜多…と有名な「般若心経」も、サンスクリット語。
正式な元の名は「Prajñāpāramitā-hdaya-sūtra」といいます。
日本の仏教のお経がサンスクリット語で読まれるのはなぜか
日本の経典がサンスクリット語で伝わった理由は、仏教がインドで生まれ、それが中国に伝わり、中国を経由して日本に伝わったため。
仏教の聖典である経典は、最初にサンスクリット語で書かれました。
それが中国に伝来した際、経典は中国語に翻訳されました。
けれどサンスクリット語は「仏教の聖典」の言語そのもので、権威のある言語であったため、一部の僧侶は、サンスクリット語を尊んで学び、原典をそのまま使用しました。
その中国で使われていたサンスクリット語の経典が、そのまま日本に伝来し、今もそのままサンスクリット語が用いられ続けているわけです。
だから、サンスクリット語を理解せず聞く側には、馴染みのない音が独特の節で唱えられている、聞き取れない言葉になるわけです。
ただ、日本に伝わった仏教のすべてがサンスクリット語で書かれていたわけではありません。
一部の僧侶は中国語で経典を翻訳し、また、日本独自に経典を翻訳した僧侶もいました。
たまに聞き取れる日本語が混ざる、和語混じりのお経があるのはそのためのようです。
サンスクリット語・梵語
サンスクリット語とは古代インドの言葉です。
古代アーリア人が作った神々への賛歌集が原点と言われていて、仏典や詩などインド古典の多くがサンスクリット語で記述されています。
文法が難解なため、特別に教養の高い知識人が使う、完成された美しい言語という位置付けで、ギリシャ語やラテン語のようなヨーロッパの古代の言語とも共通点が多いようです。仏教の経典でも、多くがサンスクリット語に由来しています。
古代インドの神様・大梵天王(万物の創造主と言われる神様。梵天とも)にちなんで「梵語(ぼんご)」と呼ばれることもあります。
そのまま日本語化したサンスクリット語
仏典などから日本に渡来したサンスクリット語が、その「音」のまま日本語になったものがあります。
仏教に関連した言葉が大半ですが、旦那、刹那、ヒマラヤといった言葉もサンスクリット語の音がそのまま使われています。
日本語 | サンスクリット語 | 意味 |
阿修羅 あしゅら |
アスラ asura |
インドの鬼神 |
娑婆 しゃば |
サバー sabhā |
この世、人間の生きる世界。 あの世(彼岸)に対する此岸のこと |
曼殊沙華 まんじゅしゃげ |
マンジューシャカ mañjūaka |
彼岸花 |
達磨 だるま |
dharma ダーマ |
仏教での「法」 だるま |
阿闍梨 あじゃり |
アーチャリヤ ācārya |
位の高い僧、先生 |
刹那 せつな |
クシャナ ksana |
仏教における最小の時間単位 1/75秒 |
ヒマラヤ | ヒマーhima アラーヤalaya |
ヒマ―は「雪」アラーヤは「住まい」 |
卒塔婆 そとば |
stūp ストゥーパ |
墓や供養の塔
日本では、法要などで供える細長い板のことを指す。 |
袈裟 けさ |
カシャーヤ kāāya |
僧衣 元の意味は「赤褐色」 |
盂蘭盆会 うらぼんえ |
ullambana ウランバーナ |
お盆の供養 |
さらに、よく聞くけれど意味はよく知らないこんな言葉も、サンスクリット語に由来しています。
カルマ(業)
サンスクリット語の「カルマン karman」に由来していて元の意味は「行為」。
行為には原因があり、一度行われた行為は必ず何らかの結果をもたらし、その結果は次の行為に影響を与えるとされています。
この原因・行為・結果・影響の連続を総称して「業(カルマ)」と呼ばれます。
業の概念は、インド哲学からに生まれ、輪廻思想とともに仏教でも取り入れられました。
人間の行為を律する意味合いが強く、現在の行為の責任は将来自らが受けるという意味で理解されることもあります。
つまり、個人の行動には責任が伴うという信念が込められているのです。
あうん(阿吽)
サンスクリット語のア・フーム(a-hū)の音からきたもの。
「あ(口を開けて発音)」が始まり、「うん(口を閉じて発音)」が終わりを表していて、万物を現しています。
神社で、口をあけている狛犬と、口を閉じている狛犬が左右に並んでいたりするのは、「阿吽」を表現したもの。
息がぴったり、といった意味でよく使われる「阿吽の呼吸」は、相撲の取り組みに由来しています。
マントラ
たまに聞く言葉ですが、ヨガや瞑想をしている方以外では意味を知っている方は少ないかもしれません。
マントラは、サンスクリット語で「真言」「神聖な言葉や音」を意味する言葉です。
もともとはヒンドゥー教などのインド宗教儀式で用いられた呪文のようなもの(神聖な言葉)です。
仏教の経との違いは、特定の宗教・宗派に限定されることなく、短い言葉(呪文)を繰り返し唱えるところにあります。
心を込めて唱えれば誰でも唱えることができ、特別な知識やスキルは必要ないとされています。
マントラには複数の種類があり、心を鎮めたり、集中力を上げ、ストレスを解消するような効果があるとされていて、宗教的な祈りの場だけでなく、瞑想、ヨガなどでも広く用いられています。